ジェラルトンからコーラルベイへ
マスタングで過ごしたパース最後の夜も明け、いよいよ出発の朝。
ユージ君やカイト君、そして昨日の自分を忘れてしまったかのようなパン。借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
パースで共に過ごした仲間たちが見送りに出てきてくれた。
わずかな時間ではあったが、一つ屋根の下、異国の地で共に過ごした日々は何もにも代えがたい思い出だ。
男同士、熱い握手とハグで連絡を取り合うことを約束しながら、手を振り別れる。
目指すは「グレイハウンド」のバスターミナル。
このグレイハウンドというバスがオーストラリア中を網羅しており、旅人にはもちろん地元のオージーたちにとっても便利な長距離バスだ。
前回の旅でもこのバスを使い、くまなくオーストラリア中を回った。
安くもあり、私にとって、一番使い勝手のいいこのバスを今回も利用した。
もっとも鉄道がそれほど発達していないオーストラリアでは、選択肢も限られているのだが。
そして目指す町は、「ジェラルトン」。
パースから約400キロ北上したところにある小さな港町である。
なぜそんなところを目指したかというと、前回の旅の際に訪れた印象がとてもよく、
こんな街にもう一度来たいと、当時からずっと思っていたためだ。
パースから数時間ほどバスに揺られ、いつかの街の情景に心弾ませながら降り立つも…
…「違う…」…
いくら街を見渡しても、当時の記憶と重なるところはどこにもなく、
建物、風景、すべてが初めて見るものだった。
「まちがえた…」私が行きたかった当時の街はジェラルトンではなかった。
実際、確実に名前を憶えていたわけではなく、たしかここだったよな…という感覚で来ていた。何の裏付けもなく、だいたいここだろうという認識の結果がこれだ。
しかし、降りてしまったものはもはやどうしようもない。
今後のバススケジュールも既に予約済のため、変更するにも面倒くさく感じ、記憶違いのこの町で滞在を決める。
間違ってやってきたジェラルトンは、一言でいうなら「退屈な街」だった。
実際はシュノーケリングやマリンスポーツが盛んだそうだが、今は日本でいう春。オフシーズンである。
そして名産というロブスターも、バックパッカーの私が軽く手を出せる値段ではない。
街は小さく、すぐに歩いて回れるような大きさだが、もちろん特に見どころはない。
そして、飛びこみで入った安宿は、宿泊客もいない様子。
設備は申し分なく、オンシーズンであればさぞ賑やかだったであろうが、宿泊客は私一人で、残念ながら相手をしてくれるのは一匹の猫のみであった。
日本人もいないような街を探し求め、そこに滞在することがステータスだと考えていたいつしかの頃。
それこそが旅の醍醐味でもあると。
しかし今はひどく寂しい。
数時間前まで一緒だった、優しいユージ君やカイト君との建設的な会話、あほのパンの顔が懐かしい。
共同のキッチンでひとりわびしい食事をとり、そんな事に想いをはせながら、
否応なく時間は過ぎていった。
翌日、次に目指す町は「コーラルベイ」。
ビーチのきれいさで有名な、オーストラリアならではの街である。
結局もともと私が行きたかった町の名前は思い出せないまま、ジェラルトンをあとにし、グレイハウンドに乗り込む。
訪れた時期や、一緒に来る人でこの町の印象も違ったものになるんだろうなと思いながら。そういった意味では、いまでは逆に忘れられない町にもなっている。
コーラルベイまではかなり走ったように思う。
距離も相当あったようで、着いたのは日付が変わりそうな夜中。
幾分、夜中につくことに安全面で心配もしていたが、何人か下車する欧米人もあり、またそうしたバスの到着時間に慣れているのか、バス停には安宿からのピックアップバスが。
そのまま適当なピックアップバスに乗り込み、宿へむかう。
良さそうな雰囲気の宿につくと、長時間のドライブにつかれていた私は着たものもそのままにドミトリーで眠りに落ちた。
Do you wanna join us!?
パース最後の一日は、まずは今後の目的地である「ダーウィン」のツアーを決めておくことにした。
現地であれこれ決めるよりかは、ここパースである程度決めておいたほうが時間を効率よく使えると考えたからである。
もっとも、先の予定を決めてしまうということは、確かに効率的に動くことができ、行動にメリハリがつくことは間違いないが、逆にいうと、時間に制約が出るのも確かである。
私のような自由な旅をしている場合、「何時までに」とか、「いつまでに」など、時間に追われることのないように、先の予定を決めるということは通常あまりしないスタンスではであるが、時と場合による。
このようにいつまでも居心地のいい場所に居座りすぎてしまいそうな場合はこのような強制的に予定を立てるのも一つの有効な手段。
時間は有限である。
その後は「スカボロビーチ」までバスに乗り出かける。
スカボロは海に面したパースの中でも人気あるビーチの一つで、かって私が住んでいた町でもある。
この町でオーストラリア生活の大半を過ごしたこともあり、とても感慨深く感じる。
何も変わってない景色を一瞬見ただけで、当時の記憶が色々と蘇ってきた。
みんな元気でいるかな、なんて考えだすとまた会いたい気持ちが止まらなくなりそうだったので、ここは先に進む為にも思い出に浸るだけにとどめ、きれいな海を目に焼き付けながら引き上げた。
今晩がパース最後の夜と言う事で、お別れ会も含め、宿のいつもの食堂で飲み会が始まる。
とても居心地がよくなってきていたけども、ここにいるそれぞれが目的がある。
そのために別々の道を歩むことは必然でもあり、進まなければならない。
ビール片手に名残惜しく最後の夜を味わう。
特別な話をするわけでもなく、地元の話や、これからのこと、みんなが思い思いの事を語りながら酒も進んでいった。
だんだんとテンションも上がり、明るいムードに満ちてきたところ、カイト君から
「これからみんなでマスタングに行かないか」との提案。
マスタングとは、シティにある有名なPUBで、酒を飲み踊ったり、いうなれば日本でいうクラブのような類の場所である。
その提案に真っ先に賛成の手を挙げたのは、いわずもがなすっかり出来上がっているパンである。
体と同じぐらいの声のでかさで、れっつふぉー!(レッツゴー)と叫んでいる。
酒飲む前はいるのかどうかもわからない存在感だった男が、もはやマスタングリーダーとして先陣を切りだす。
すっかり酒で出来上がり、楽しいムードになった私たちは満場一致でマスタングに向かうことに。
目的の場所へ向かう道中、ガソリンである酒を追加するためにコンビニへ。
そこでひと問題が起きる。
ふと見ると、なにやらカイト君が店員ともめている。
全く聞き取れないネイティブ並みの英語でタイジ君が、店員に詰め寄っている。
どちらに非があるのかわからないが、店員は応じることなくだんまりを決め込み時折反論するのみ。そこにカイト君が何やらたたみ掛ける。
気が済んだのか、すぐに店を出て事態は収束したが、聞くところによればお釣りの間違いから口論に発展したそうな。
いや、しかし。理由はどうあれ、私はこの年下のストゥーデントに感服せざるを得なかった。
果たしてわたしが仮にお釣りの間違いに気づき、店員に非があることがわかっても、あのようなことを言えるだろうか?異国の地で、物怖じもせず、自分の主張を述べれるだろうか?
現時点での私ではNOだ。とてもじゃないけど、そんな勇気は持ち合わせていなかった。おそらく気づいたとしても、黙ってやり過ごすことになるだろう。
そんな自分に恥じている時、ふと通りに目を移すと、
「Do you wanna join us!?」「Do you wanna join us!?」
(俺たちと一緒に行かないか?!)
と、片っ端から通行人に声をかけているパンが目に入った。
先ほど自分を恥じた気持ちは、パンを恥じることによってすっかり失せてしまった。
マスタングではパンを筆頭に踊り狂った。
普段、踊りなどめったにしない私だが、それはむしろ踊りではなくみんなで肩を組み、円陣を組みながら飛び跳ねるといった類のもので、周りからすれば迷惑極まりないアジア人の集団だったであろう。
が、名も知らない人たちもパンの「Do you wanna join us!?」の言葉に惹かれ、いつしか大勢が円陣に加わり、パース最後の夜は盛り上がっていった。
パンとカイト君
ユージ君から紹介された同じバックパッカーズに泊まる二人。
韓国人のパンと、日本人のカイトくんはパースの大学に通い、STUDENT VISA(学生ビザ)を取得してここパースに滞在している。
学生である以上、よほどの資金に余裕あるものでない限り、こうして私たち同様節約にいそしみ、このような安宿に泊まりつつ学校に通うものも少なくない。
それは世界各国共通の認識のようだ。
新しく来た私を紹介がてら、安宿の共同キッチンにみんなで夕食、そしてビール片手にテーブルを囲む。
オーストラリアのバックパッカーズ的な安宿には大抵このような共同キッチンが併設されていて、それぞれが自分で食材を管理し、自炊する。
この日もスーパーで買ってきた簡単な食材を調理し、他の者に間違えて食われたり盗まれたりしないよう、名前を書いて冷蔵庫に保存する。
しばらくオーストラリアでの生活が続く私も必要最低限の調味料は揃えておいた。
かさばるため量もできるだけ少なく。そして移動の際に痛まないようなものをチョイスするのが鉄則だ。
それぞれ見た目はあまりよくないパスタや、チャーハン的な男飯をつまみながら自己紹介をかねて懇親会が始まる。
パンは体はかなり大きく、なにか格闘技でもやってるかのような体躯をしているが、本人曰く生まれつきの恵まれた体形なだけで、特にこれといってしてないらしい。
もっとも、韓国の若者は数年間、軍に入りそこで訓練を受ける。
有名人がなんとかそれを受けまいと、ときおりニュースになるのも見かけるが、我々日本人よりも常に北朝鮮の脅威にさらされていることを考えれば、自国を守るための致し方ない防衛手段なのだろう。
もっともそんな簡単にまとめられる話では決してないが、このパンに関してもその義務を果たしているわけで、とりたて実戦経験はなくとも、平和ボケしている私たちに比べればはるかに戦闘能力は高いのだろうと推測する。
そんな私の思いとは裏腹に、物静かでとてもシャイなこの韓国人の横にいるのが、いかにも秀才そして男前という天から二物もの恩恵をうけたカイト君。
当時私が25歳、ユージ君が29歳、カイト君とパンは同い年の23歳だったが、パンとは違いよく話し、また話す内容を聞いているといかにも
論理的な内容のため、頭の悪い私には少し苦手なタイプではあった。
パンと話すときは英語になるため、そこで彼の英語力の高さを目の当たりにするが、
さすが、英語を生業としている学生。脱帽。
また、自身の英語力に恥ずかしい思いもした。
しかし、ユージ君がいるので安心もしていた。
同レベルだからである。
そんなカイト君も、これから世界一周を目指す私に興味を持ってくれたようで、話の中心は私にうつった。
学生の身分である以上、このような思い切った旅は難しく、その分余計に興味がわくのかもしれない。
「世界一周?めちゃくちゃいいですね~!俺もいつかやってみたいなー!」
「カイトくんなら 帰国後しっかりした外資系に入社して、稼ぎも全然ちがうだろうから、俺みたいな貧乏旅行じゃなくてもっと豪華な旅がいつでもできるよー」
「そんなうまくいかないですよ、ヒュミさん。それに俺、こういう宿の方が意外と肌に合うんです。将来旅に出るとしても、同じバックパッカースタイルでいきたいですね。」
酒が入ると意外と話も合いそうである。
やはり私の先入観の問題か。
それよりも、先ほどまで全く静かで傾聴のスキルが高いと感じていたパンが、いつのまにか席を離れ、あちこちで笑いながら上機嫌にみんなに話しかけている。
どうやら、酔うとこうなるタイプらしい。
そんなこんなで、日本人同士、お互いの故郷の事や、これからの事、たわいもない話をしながら夜は更けていった。
パースにいるのもあと1日である。
旧友との再会
もう一人、旧友との再会を書いておきたい。
彼の名は、「ユージ君」。
何をかくそう、前述した5年前のインドネシアで出会い、
当時、全財産をもぎ取られ、途方に暮れていた私を救ってくれた一人である。
歳は4つほど先輩ではあるが、地元も同じ大阪という事もあって、帰国後も時折会う機会を作り、食事などを共にしていた。
その彼が、奮起一転、ここオーストラリアの地を目指し、「ワーキングホリデー」の制度を使ってここにきたのが、およそ8か月ほど前。いろいろと彼なりに日本でも思うことがあり至った決断のようだった。
それはさておき、私にとってはまぎれもなく「恩人」であり、また、彼独特のゆるい感じも大好きで、先輩風などふかすこともなくただただ、マイペースの彼に会いたかったのはパースに来た理由の一つとして数えてもいい。
待ち合わせは、ひさしぶりの「スワンリバー」。地元の人たちも朝からジョギングをしたり、散歩をしたり…パース市街における市民憩いの場所。
パースといえば、ここに来ないと始まらない。
そんなスワンリバーでケンジ君と待ち合わせをする。
「ヒュミ!ひさしぶり!!!」
「ユージ君!!会いたかったです!!!」
旅を通じて出会ったからか、大阪よりもしっくりなじむ気がする。こういう旅先の方が。
ひとしきりお互いの近況を共有しつつ、スワンリバーの瀟洒なカフェで朝食をとり、今日一日は久しぶりのパース観光に付き合ってもらうことにする。
まずは、市内きっての観光名所「キングスパーク」。
ここから一望できるパース市街の風景をみていると、5年前の当時をいろいろと思い出す。
忘れかけていた何かが少しずつ戻ってくるような。懐かしい気持ちでいっぱいになる。
「ヒュミは、そういえばこれからどうするの?」
「これからは…まずダーウィンまであがって、そのあと…世界一周しようと思ってるんです!とりあえずは、アジアぶらぶらしながら」
「おぉ!まじかー!今回はそんな壮大な旅やったんやねー!うらやましいなぁ、今がスタートやもんね。」
ユージ君はこのオーストラリアでのワーホリ生活もそろそろ終止符を打つべき時期に来ているらしい。
やりきった、やりきれてない、この期間に思うことは本人にしかわからないことではあるが、異国の地に来ている者同士、やはりお互いのこれからの行き先、活動は気にかかる。
そしてそれは、できれば聞いていて気持ちいいものであってほしい。
こういう話をするときには、自分に羨望の目を向けさせようと誇張気味に話す奴、要するにイキり気味に話してくる奴が多いのも実感としてかなり多いが、ユージ君はもはや悟りを開いてるかのよう。
自分のことはもちろん、私のことについても特段感情を荒ぶることもなく、ただこの優しいまなざしで受け止めてくれる。
そんな彼が大好きなのだ。
そんな話をしながら向かった先は、「スビアコ」。
ここは当時の私が、「ドライバー」として働いていた日本食のレストランがある街。
その面影を見たかっただけではなく、フリーマーケットでも有名で、冷やかしがてらその雰囲気も味わう。
昔いた街。
自分にとってそうした街を訪れると言う事は、当時の思い出に浸るだけではなく、蘇ってくる思い出と同時に、何かそれ以外の自分にとって有益な記憶を思い返そうと、期待しているのかもしれない。
もっともそれはここスビアコにおいては当時のぶつけまくった車の苦い思い出だけでしかなかったのだが。
それでもはじめて海外でクルマに乗り、海岸線を走り、配達にいそしんだ記憶はやはり感慨深くもある。
そうして、電車に乗り、向かった先は「フリーマントル」。
港町で、ここも大好きな街の一つ。
この街名物の「フィッシュ&チップス」を食べながら、突き抜けるような青空の元。VB 片手にユージ君とたわいもない話を続ける。
周りには休日と言う事もあり、私たちと同じようなオージーたちがにぎやかに語り合っている。
日本と比べるのはこの場合無意味なことでしかないと思うが、しいて言うならこのような日常の気楽さ。日々にある一瞬の幸せのようなものを楽しむ力。これはわが日本においてももっと満喫すべきではないだろうか。などとこの雰囲気の中では思わざるを得ない。
たわいもない日常ではあるが、それが素晴らしいのである。
有名なフリーマントルの「夕陽」を目に焼き付け、パースの街に戻る。
ユージ君の泊っているバックパッカーに宿を移し、そこで日本人の「カイト君」、韓国人の「パン」と知り合う。
そしてユージ君を含め、彼たちが私のパースの旅をさらに彩りいいものにしてくれるのである。
英語の壁
次々に来るアナの友人に自己紹介こそすれど、その後の会話がなかなか続かない。
なんとか、気を使って話を振ってくれはするものの、全く反応できない私から、自然と「話せるもの同士」の会話になるのも 致し方ないことだろう。
それでもアナを含め、みんなが気を使ってくれてはいたが、このネイティブのなかでは完全に孤立してしまった。
もはや、酒としか話す相手がいない。
本当にこういう旅に出るときには、英語力と金はあればあるほど満ち足りたものになると、改めて実感した。
そうこうもう一人の私との会話をしているうちに、ベンがやってきた。
彼はアナの夫である。
そう、彼女はつい最近、彼と籍を入れたばかりだとのこと。
事前にアナから結婚したことの報告を受けていた私は、彼に会うのも楽しみにしていた。
「やぁ、きみか!日本から来たアナの友人は!」
笑顔がさわやかなナイスガイな印象で、さっそくビールで乾杯する。
両腕にバリバリ入ったタトゥーも、なぜかこのベンというだけで威圧感はなく、
ファッションというよりも、どこかこのベンが目指すべきライフスタイルを表現しているような、自然さがあった。
昔の彼氏のサンドロには全く似ていない。
「それで、ヒュミはこれからどこにいくんだ?」
「うん、まずは前回来た時に行けなかった、北部の方…そう、カカドゥを目指そうと思ってるよ」
「おぉ!まじかよ!あそこは最高だぜ!あそこはオーストラリアの中でも自然がハンパねぇところだからな!ワニもうじゃうじゃいるぜ!」
ワニのくだりはおいていても、自分が目指すべき場所が地元民からも推奨される場所と言う事に安堵し、またワクワクした興奮も感じられた。
「それで、そのあとはどうするんだ??」
「そのあとは、インドネシアに向かって、アジアを回り、最終的には世界を一周まわるつもりだよ」
「リアリィ!?マジかよ!!ファッキンクールじゃねーか!!!」
そうしてベンとその横に座るアナと三人で旅の話をして盛り上がっていると、徐々に離れていたアナの友人たちも会話に戻ってきた。
私も酒がだいぶ回り、伝わっても伝わらんでもどっちでもえーわ的な、かなり気持ちが大雑把になり、もはや英語も適当にしていたことが功を奏したかもしれない。
もちろんスピーキングもヒアリングも酒を飲むことによって、上達したわけではない。
ブロークンイングリッシュは変わらないままだが、なんとなくニュアンスというか、第6感で感じているような。
最終的には、俺はあそこ行ったなど、あの場所にはいくべきだの、みんなそれぞれが世界の行った場所自慢やおすすめの国などで盛りあがり、いつのまにか夜は更けていった。
「じゃあね、ヒュミ。また、ぜひ連絡してちょうだい。
それから、旅の話もまた聞かせてね、楽しみにしてるわ。」
「そうだぜ、それにパースに来ることがあったら、また飲もうぜ!
あ、あと、ワニには気をつけろよ!」
「二人ともありがとう。そうだね、かならず連絡するよ。ワニには相当ビビってるけど…」
「ハハハ!とにかくだ、良い旅を!だ。また会える日を楽しみにしてるぜ!」
ベンとアナそれぞれと苦手なハグをまた交わす。
出会いの時よりも、少しだけうまくできた気がする。
うまいも下手もないのだろうが、なんというか。
感情をうまく乗せれたような。
五年ぶりに会った友人と、その夫に手を振り、安宿に歩いて帰る。
最後は何とか、輪になじむこともできたが、孤独を感じたあの瞬間。
これからもそういう感じはたくさんあるんだろうなぁと思いながら。
今までは自分の周りにたくさんの仲間がいたなぁと日本での支えられてきた日々を感じながら、
パースでの夜は更けていった。
アナとの再会
サンドロとはその後しばらく付き合いは続いたそうだが、今は結局のところ2人は別れる事となり、サンドロは母国のイタリアへ帰ったそう。
当時はこのサンドロを通じて、アナと出会い、当時ひどい英語しか喋れなかった私にも大変よく付き合ってくれてたと思う。
彼女は、「マーガレットリバー」という、街に住んでいた。
パースから車で南に約3時間ほど走ると、世界でも有名なサーススポットを有する自然豊かな小さな町がある。
そこでは「ワイナリー」も有名で、マーガレットリバー産のワインを生産している場所も多数あり、実際リアナの実家もワイナリーだった。
他にも広大な敷地でストロベリーや色々な野菜も育てる畑も有しており、当時はその収穫業を「ピッキング」と呼び、その作業に従事したこもある。
また、そのワイナリーに泊まらせてもらい、大自然の中、イタリア人のサンドロと共にパスタを作り、ワインを飲みまくり、最高の時間を提供してくれたかつての友との再会は、もはやサンドロはいなくてもなんらコミュニケーションに障害はなく、この5年間個別の友情を育むことができていた。
ドミトリーを出て、まずはアナに電話をかけに。
いつもこの海外での電話というのは全く緊張しかないが、集中しているせいかその分意外と聞き取りもでき、相手にも話が伝わってる気がする。
5年ぶりのアナの声。少しハスキーで、テンション高めのその声は、メールでやり取りしていた時には感じられなかった当時を一瞬で思い出す。
「hey!humi!!」
相変わらずの声を聞くと、懐かしさと電話が繋がった安堵の気持ちがあふれる。
電話では話もそこそこに、夕方パースのシティで会う約束を段取りし、なんとか無事会えそうなグッジョブ感を感じながら宿に戻る。
夕方までは少し早めに街へでて、久しぶりのパースの街並みを堪能する。当時通った日本食レストラン、あびるほど酒を飲んだパブ、ここのピザ美味しかったなーなど感慨深さに浸りながら、そして待ち合わせ場所へ。
ほぼ時間通りに到着すると、同時に当時より髪が短くなった事以外、全く変わらないアナと再会。
5年前、彼氏の友達だったというだけでこのように再会の約束をこじつけるなど自分の中で少しおこがましさを感じたりもしたが、アナの笑顔はそんな事など杞憂に思わせてくれる。
「元気だった??」
「あぁ、ひさしぶり!元気そうだね」
と言いながら、ハグで挨拶。
この、ハグというものが、私は少し苦手である。
男性同士なら、全く構わないが、いかんせん相手が女性ともなるとどのような加減で接すべきなのか、とても迷う。
強くやるべきなのか、それともそこまでギュッとするのはマナー違反なのか。
それに頬にキスをする仕草も、あれは本当にキスをするのか。
頬を、合わせるだけなのか。
仮にキスをしてるとなると、誰でもいいわけではお互いないだろう。
だからといって、しないというのも失礼に当たるような気もするし、しても加減が難しい。
とりあえず、アナとは気持ち強めにハグをし、頬も軽めに。
自分の中でベストの選択肢を選んだつもりだったが、若干顔を曇らせた気がしたのは見間違いだろうか。
さておき。
連れられて入ったパブ&レストラン的な所に入った私たちは久しぶりの再会に話を弾ませる。
といっても、なにを言ってるのか、ほぼ理解できていないのだが…
とにかく、愛想をふりまき、なんとか雰囲気で乗り切っている。
しかし、徐々にアナの友人達が連れ立ってやってきて、主役だった私はさらにその言葉の壁にもがき苦しむことになる…
1ヶ国目【オーストラリア】
第1ヶ国目、世界一周を始めるスタート地点に選んだのが「オーストラリア」である理由は、そんなことから、当時の自分をリセットしたい気持ちも多少なりともあったかもしれないが、まあ単純に言ってしまえば行ったことのある国から始めた方が何かと勘も取り戻しやすいと考えたからだというのが大半を占める。
そうして5年ぶりに降りたった街は、オーストラリア西の州都「パース」。
世界で最も住みたい街ランキングに毎年選ばれていることからも、この町の雰囲気は格別だ。
穏やかな気候の中、ゆったりとした時間が流れ、緑があふれる街並みのなか流れるスワンリバーは旅人にも優しく、この街に来たことを歓迎してくれる。
Cityと呼ばれる街の中心街は区画も整理され、とてもきれいな街並み。生活に必要な大体のものはここでそろう。
また、飲食店やBARなども雰囲気良く立ち並んでおり、昼間からフィッシュ&チップス
とともにビールで乾杯する光景も、この街の自由さを彩っている。
空港からCity中心部までTAXIで向かい、目星をつけていたドミトリーがある宿にチェックインする。
「ドミトリー」とは、1部屋が複数人用になっており、シングルベッドや、2段ベットなどが用意され、4~8人用、多いところではそれ以上になる場合もある。
国籍も違う見知らぬ者同士が寝起きを共にするわけだが、ここでの出会いは貴重で、旅の情報を得るためには欠かせない。
もっとも、ドミトリーを選択する一番の理由は値段の安さであることは言うまでもない。
長旅を続けるいわゆるバックパッカーと呼ばれる旅人達が、最も出費の高い宿泊費をなるべく安く、節約しようと考えるのは世界共通の認識だ。
もちろん、安いというメリットのほかデメリットももちろんある。
複数人の相部屋になる以上、その時のメンツによって部屋の快適具合が大きく変わる。
ここでの出会いがきっかけで、食事に行ったり情報交換をしたり、旅を続けていくうえで有意義な時間を過ごせることも多い中、やはりそこは多国籍になる以上、予想だにしない出来事も多い。
いびきがやたらでかい奴、夜中殿酔して大声でわめき散らす奴、2段ベッドでセックスを営む奴…これらはまだ我慢もできるが、盗難を生業にしてるような奴らも中に入る。
やはり初めて会う一期一会の旅人同士、油断はできず、その辺りにおいても気を張ることになる。
そういったデメリットを考慮しても、やはり安さを優先せざるを得ないのがバックパッカーの運命なのである。
とりわけこの日チェックインしたドミトリーにおいては、旅人は少なく、その分いろいろ危惧していた確率も低くなり、久しぶりの相部屋となった私も多少の安堵をする。
さて、この街に来た目的のひとつ。
それは5年前、ここで出会った友人アナに会うことである。
彼女はオーストラリア生まれの生粋の「オージー」で、出会いは5年前にさかのぼる。
当時、短期の英語学校に通っていた私は、前途した圧倒的な英語力のなさから、学校内でも最下層のクラスに属していた。
そこにはあらゆる国の、私と同じレベルの英語力しかもたない者たちが集まっており、
その中で、「pizza」の綴りすら書けないイタリア人と出会う。
この最下層のクラスの中でも、自分の英語力においては全く自信のなかった私でもさすがに「Sushi」ぐらいは書ける。
こいつには勝ててる。
そんな、とてつもなく低い優越感に浸らせてくれた彼の名は「サンドロ」。
そのサンドロの彼女がアナであった。