英語の壁

次々に来るアナの友人に自己紹介こそすれど、その後の会話がなかなか続かない。

なんとか、気を使って話を振ってくれはするものの、全く反応できない私から、自然と「話せるもの同士」の会話になるのも 致し方ないことだろう。

 

それでもアナを含め、みんなが気を使ってくれてはいたが、このネイティブのなかでは完全に孤立してしまった。

 

もはや、酒としか話す相手がいない。

 

本当にこういう旅に出るときには、英語力と金はあればあるほど満ち足りたものになると、改めて実感した。

 

そうこうもう一人の私との会話をしているうちに、ベンがやってきた。

彼はアナの夫である。

 

そう、彼女はつい最近、彼と籍を入れたばかりだとのこと。

事前にアナから結婚したことの報告を受けていた私は、彼に会うのも楽しみにしていた。

 

「やぁ、きみか!日本から来たアナの友人は!」

 

笑顔がさわやかなナイスガイな印象で、さっそくビールで乾杯する。

両腕にバリバリ入ったタトゥーも、なぜかこのベンというだけで威圧感はなく、

ファッションというよりも、どこかこのベンが目指すべきライフスタイルを表現しているような、自然さがあった。

 

昔の彼氏のサンドロには全く似ていない。

 

「それで、ヒュミはこれからどこにいくんだ?」

 

「うん、まずは前回来た時に行けなかった、北部の方…そう、カカドゥを目指そうと思ってるよ」

 

「おぉ!まじかよ!あそこは最高だぜ!あそこはオーストラリアの中でも自然がハンパねぇところだからな!ワニもうじゃうじゃいるぜ!」

 

ワニのくだりはおいていても、自分が目指すべき場所が地元民からも推奨される場所と言う事に安堵し、またワクワクした興奮も感じられた。

 

「それで、そのあとはどうするんだ??」

 

「そのあとは、インドネシアに向かって、アジアを回り、最終的には世界を一周まわるつもりだよ」

 

「リアリィ!?マジかよ!!ファッキンクールじゃねーか!!!」

 

そうしてベンとその横に座るアナと三人で旅の話をして盛り上がっていると、徐々に離れていたアナの友人たちも会話に戻ってきた。

 

私も酒がだいぶ回り、伝わっても伝わらんでもどっちでもえーわ的な、かなり気持ちが大雑把になり、もはや英語も適当にしていたことが功を奏したかもしれない。

 

もちろんスピーキングもヒアリングも酒を飲むことによって、上達したわけではない。

ブロークンイングリッシュは変わらないままだが、なんとなくニュアンスというか、第6感で感じているような。

 

最終的には、俺はあそこ行ったなど、あの場所にはいくべきだの、みんなそれぞれが世界の行った場所自慢やおすすめの国などで盛りあがり、いつのまにか夜は更けていった。

 

「じゃあね、ヒュミ。また、ぜひ連絡してちょうだい。

それから、旅の話もまた聞かせてね、楽しみにしてるわ。」

 

「そうだぜ、それにパースに来ることがあったら、また飲もうぜ!

あ、あと、ワニには気をつけろよ!」

 

「二人ともありがとう。そうだね、かならず連絡するよ。ワニには相当ビビってるけど…」

 

「ハハハ!とにかくだ、良い旅を!だ。また会える日を楽しみにしてるぜ!」

 

ベンとアナそれぞれと苦手なハグをまた交わす。

 

出会いの時よりも、少しだけうまくできた気がする。

うまいも下手もないのだろうが、なんというか。

感情をうまく乗せれたような。

 

五年ぶりに会った友人と、その夫に手を振り、安宿に歩いて帰る。

 

最後は何とか、輪になじむこともできたが、孤独を感じたあの瞬間。

これからもそういう感じはたくさんあるんだろうなぁと思いながら。

 

今までは自分の周りにたくさんの仲間がいたなぁと日本での支えられてきた日々を感じながら、

パースでの夜は更けていった。